私の話と指示をもとにAIが作った小説

第一話:運命の出会い
新宿の摩天楼が夜空にそびえ立つ、煌びやかなオフィス街。七里は、窓際の一室で深呼吸をした。ここ数年、寝る間も惜しんでネットビジネスに打ち込んできた。そのかいあって会社は軌道に乗り、彼自身にも時間とお金に余裕が生まれていた。
「さて、次はどうする?」
ビジネスをさらに拡大させるか、それともプライベートを充実させるか。七里は、成功を掴んだ喜びと、これから進むべき道の岐路に立ち、静かに自問自答していた。
そんな時、彼の携帯電話が鳴った。相手は、後輩、田中だった。

「もしもし、七里さん?実は今度、とんでもないパーティがあるんだけど、興味ない?デヴィ夫人のパーティなんだよ!」

田中の興奮した声に、七里は思わず聞き返した。

「デヴィ夫人?あの、インドネシアのスカルノ元大統領夫人、あのデヴィ夫人?」
「そう、あのデヴィ夫人!桂由美さんとコラボした、ブライダルと宝石のパーティなんだって。超豪華らしいよ!」
テレビの向こう側の存在、雲の上の人物だと思っていたデヴィ夫人。そのパーティに招待されるなんて、想像もしていなかった。35歳を過ぎ、人間としてもっと成長したい、新しい世界を見てみたいと思っていた七里にとって、この誘いは願ってもないチャンスだった。
「奥さんと一緒にどうかな?結構、有名人も来るみたいだよ!あ、それとね、夫人がプロデュースした宝石の販売会もあるらしいんだ。良い宝石は、金運アップにも繋がるらしいよ!」

よし、分かった。奥さんを誘って、参加することにするよ。ありがとう、田中くん」

当日、七里は緊張しながらホテルオークラの会場へ向かった。普段はTシャツにジーンズ姿が多い彼だが、今日は気合を入れて、デパートで購入したばかりのスーツに身を包んでいる。隣には、淡いピンクのドレスを上品に着こなした妻の姿があった。
ホテルオークラのロビーに足を踏み入れると、そこはまさに別世界だった。煌びやかなシャンデリアの光が降り注ぐ、華やかな空間。美しいドレスや煌びやかなジュエリーを身につけた女性たち、高級スーツを颯爽と着こなす男性たちが集い、華やかで洗練された空気が漂っていた。
「すごい…まるで映画の世界みたい…」
妻は、目を輝かせながら周囲を見回していた。
会場には、華やかなブライダルドレスが飾られ、その周りにはデヴィ夫人がプロデュースした宝石の数々が展示されていた。ルビー、サファイア、エメラルド…まばゆいばかりの輝きを放つ宝石たちに、七里は目を奪われた。
軽快なジャズが流れる中、フィンガーフードやシャンパンが振る舞われ、参加者たちは談笑しながら、優雅な時間を過ごしていた。
「あ、見て!あの人、○○さんじゃない?」
妻が、興奮気味に指差す先には、テレビでよく見かける有名女優の姿があった。
「本当だ…」
七里も、驚きを隠せない。こんな場所に、有名人が普通にいることに、軽いカルチャーショックを受けていた。
しばらくすると、会場の空気が一瞬にして変わった。視線の先には、風格を漂わせたデヴィ夫人がいた。テレビで見るよりも小柄だったが、その存在感は圧倒的で、まるで太陽のように周囲の人々を惹きつけている。
「うわぁ…本物だ…」
妻は、息を呑んで呟いた。
次の瞬間、デヴィ夫人はスタスタと妻の方に歩み寄り、
「あら、あなた。そのドレス、素敵ね。でも、その胸元、ちょっと寂しいんじゃないかしら?」
と、優しい笑顔で、しかし鋭い指摘をした。
妻は、突然のことに驚き、顔を赤らめた。
「これなんか、すごく似合うわよ。あなたの美しさをもっと引き立ててくれるわ」
デヴィ夫人は、そう言って、ダイヤモンドが輝くネックレスを妻の首元に当てた。それは、眩いばかりの輝きを放つ、高価そうなネックレスだった。
「え、でも…これは…」
妻は、言葉に詰まった。値段が気になるのはもちろんのこと、こんな高価なものを勧められるとは思ってもみなかったからだ。
「大丈夫よ。あなたにはこれがピッタリだわ。ほら、お会計はあちらでね」
デヴィ夫人は、そう言うと、有無を言わさぬ様子で、妻を隣にいた男性スタッフに託し、次のターゲットへと颯爽と移動していった。
その間、わずか1、2分。
「え、ちょ、ちょっと待って…」
妻は、状況が理解できずに戸惑っていたが、すでにスタッフがクレジットカードの処理を進めていた。
七里は、呆然としながらも、デヴィ夫人の並外れた商才とカリスマ性に圧倒されていた。そして、宝石を買ったことで、客という立場を得て、夫人との距離が少し近づいたような気がした。
パーティはその後も続き、桂由美さんのデザインによる、ため息が出るほど美しいウェディングドレスの数々が披露された。すらりと背の高いモデルたちが、まるで妖精のようにランウェイを歩く姿は、七里にとって新鮮な驚きだった。
ブライダルショーの途中には、デヴィ夫人がステージに上がり、インドネシア時代の思い出や、スカルノ元大統領とのエピソードを語った。
「大統領は、本当に愛情深い方でした。私にたくさんの愛と、美しい宝石を贈ってくれました」
夫人の言葉に、会場からは感嘆の声が上がった。
華やかなブライダルショーの後は、軽快な音楽と共に、ビュッフェ形式の食事が振る舞われた。色とりどりの料理がテーブルに並び、参加者たちは談笑しながら、贅沢な時間を過ごしていた。
帰り道、妻は高額なネックレスを買ってしまったことに少し後悔していたが、七里は満足げだった。
「確かに高かったけど、良い経験になったよ。それに、あのネックレスのおかげで、夫人と少し話せたしね。有名人と仲良くなるには、お金を使うことも必要なんだな」
このパーティが、七里とデヴィ夫人の運命的な出会いの始まりだった。彼はまだ、この出会いが自分の人生を大きく変えることになるとは、知る由もなかった。

七里は、デヴィ夫人のパーティで妻が宝石を買わされた衝撃から一夜明け、新たな目標を心に決めていた。
「あの夫人に認められなければ、この世界に足を踏み入れることはできない…」
七里は、デヴィ夫人のパーティでの出来事を思い返していた。豪華絢爛な空間、雲の上の存在であるデヴィ夫人、そして妻に容赦なく突きつけられた宝石の販売。
「あれは、ただのパーティじゃない。試されているんだ」
そう確信した七里は、夫人に認められるための方法を探し始めた。
ネットを駆使してデヴィ夫人に関する情報を集め、彼女の行動パターンや好むものを徹底的に調べた。
まず最初にしたことは、夫人主催のパーティに全て参加することだった。まずは、顔を覚えてもらうことが重要だ。
七里は、デヴィ夫人のパーティへの招待状が届く度に、必ず出席した。
通常、パーティは丸テーブルで8名ワンセットで行われる。
七里は、必ず友人を連れて行き、テーブルを埋めた。
「七里さん、今回はこんなにたくさんの人を連れてきてくれたのね。ありがとう」
デヴィ夫人は、七里の集客能力に目を留め、彼のことを覚えてくれた。
顔を覚えてもらうと、パーティ後の懇親会への誘いが届くようになった。
「七里様だけ、おわったら、つぎの会場に、ってカードが渡されるんだ」
懇親会では、デヴィ夫人と少しだけ話す機会があった。
そこで、七里は改めて、デヴィ夫人に認められるための条件の厳しさを痛感した。
「礼儀正しさ、服装、会話、エスコート…すべてにおいて完璧でなければならないのか…」
七里は、夫人に認められるための条件が、想像をはるかに超えるものであることを悟った。
特に服装に関しては、デヴィ夫人から厳しい指摘を受けることが多かった。
「あの時、夫人から『その服、ダメよ』って、帰らされたんだよね…」
七里は、過去の苦い経験を思い出した。デヴィ夫人との食事会での出来事だった。
ウェルカムカードに書かれた「ブラックタイ」というドレスコードを理解できず、普通の服装で行ってしまったのだ。
デヴィ夫人の鋭い視線は、七里の服装にすぐに気がついた。
「あなた、その服、ダメよ!ここはブラックタイよ!」
デヴィ夫人は、容赦なく七里を叱責した。
「え、でも…ブラックタイって、どういう…?」
七里は、慌てて反論しようとしたが、デヴィ夫人の表情は険しく、言葉は容赦なかった。
「もう帰なさい!今すぐ帰って、ちゃんとした服装で来なさい!」
七里は、デヴィ夫人の厳しい言葉に、何も言い返せず、ただ黙って会場から退席した。
その後、七里はデヴィ夫人に認められるために、様々な努力を重ねた。
パーティの案内状が届けば、必ず会場の雰囲気やドレスコードを事前に調べるようになった。
七里は、パーティ会場の下見まで行くようになった。
ホテルの担当者に、会場の雰囲気やドレスコードについて詳しく聞き込み、写真撮影も許可をもらった。
「この会場は、どんな雰囲気ですか?」
「ドレスコードは厳格ですか?」
七里は、事前に徹底的に下調べを行った。
そして、服装については、写真に撮ってデヴィ夫人に見せ、OKをもらってから、パーティに参加するようになった。
「この服で大丈夫でしょうか?」
「このネクタイは、どうですか?」
七里は、デヴィ夫人に服の写真を送ると、数時間後には必ず返信が届いた。
「うん、悪くないわね。でも、もう少し華やかさを加えた方がいいわ。あと、その靴はダメよ。もっと上品な靴にしなさい」
デヴィ夫人の厳しい指令に、七里は毎回、戦々恐々としていた。
しかし、七里は諦めなかった。
「俺は、デヴィ夫人に認められるために、どんな努力も厭わない」
そう心に誓い、デヴィ夫人の厳しい指導を、必死に受け止めようとした。
七里の努力は、徐々に実を結び始めた。
デヴィ夫人主催のパーティに、七里は必ず出席するようになった。
最初は、後ろの方のテーブルに座っていたが、回を重ねるごとに、少しずつ前に座れるようになった。
そして、デヴィ夫人主催のパーティだけでなく、夫人の友人が開く食事会にも呼ばれるようになった。
そうなると、次に、個人的な食事会や、歌舞伎の鑑賞、バレーやオペラなど、夫人の私生活のお誘いがくるようになった。
七里は、デヴィ夫人と一緒だと、いつも最高の席、VIP待遇で見ることができた。
「今日は、歌舞伎の鑑賞ですね。楽しみですね」
「あの席は、いつも、私のために取っておいてくれるんです」
デヴィ夫人は、七里に特別な待遇をしてくれた。
そして、終わったら舞台裏の挨拶もいける。これが楽しいし、芸能人の人と知り合えるチャンスだった。
それは、七里がデヴィ夫人に認められるために努力し続けた結果だった。
七里は、デヴィ夫人から「厳しい洗礼」を受けたことで、社会人として、そして人間として大きく成長した。
服装、マナー、そして周囲への配慮…
デヴィ夫人から学んだことは、七里のその後の人生に大きな影響を与えることになった。
七里は、デヴィ夫人の厳しい指導に感謝しながら、これからも成長を続けようと考えていた。
そして、彼はまだ知らない。
デヴィ夫人との出会いが、自分の人生を大きく変えることになることを…



# 第二話:絶交

東京の喧騒が遠のく夜。高層ビルの一室で、七里は窓際に立ち、街の灯りを見下ろしていた。ネットビジネスで成功を収め、やっと余裕が出てきた矢先、彼の人生は思わぬ方向へと進み始めていた。

携帯電話が鳴り、ディスプレイにはデヴィ夫人の名前が表示される。七里の心臓が高鳴った。

「まあ、あなたね」デヴィ夫人の声が響く。「素晴らしいパーティーがあるの。私と一緒に二人で行きましょう」

その声には、いつもの威厳と、どこか期待のようなものが混ざっていた。七里は躊躇した。海外でのパーティー。デヴィ夫人と二人きり。英語での会話。どれをとっても、彼の comfort zone を大きく超えていた。

「申し訳ありません、夫人」七里は慎重に言葉を選んだ。「私は英語が得意ではないので、二人きりで海外に行って適切にエスコートする自信がありません。今回は辞退させてください」

電話の向こうで、一瞬の静寂が流れた。そして、デヴィ夫人の声が一変した。

「あなたね、日本人が1000年経っても呼ばれないようなパーティーに、東洋人も、東洋の名もなき男性を連れて行こうとしている私の勇気をどう捉えるの?」

七里は思わず笑いそうになった。「こんなこと言えるのは世界広してデヴィ夫人だけですよ」と心の中でつぶやいた。しかし、その言葉の中に、デヴィ夫人なりの信頼と期待が込められていることも感じ取っていた。

結局、七里は折れて同行することになった。しかし、予想通り困難の連続だった。

高級ホテルのロビーで、七里はウェルカムメッセージを単なる装飾品と勘違いし、重要な予定を見逃した。デヴィ夫人の怒りの矛先は、まっすぐ七里に向けられた。

「あなた、昨日の連絡は何だったの?私が秘書を通じて伝えたのよ」

七里は冷や汗を流しながら謝罪した。「申し訳ありません、夫人。私の不注意でした」

パーティーの準備も難航した。タキシードの着こなし、食事のマナー、会話の作法。すべてが七里には新しい経験で、デヴィ夫人の厳しい指導が続いた。

「あなた、そのネクタイの結び方は何なの?」「お箸じゃないのよ、ナイフとフォークをきちんと使いなさい」「会話は相手の目を見て!」

七里は必死に応じようとしたが、ミスの連続に自信を失っていった。

ついに限界に達した七里は、荷物をまとめ始めた。高級ホテルの部屋で、彼の手は震えていた。

「申し訳ありません、夫人」七里は声を震わせながら言った。「もう私は夫人をエスコートする自信がないので、このまま一人で帰ります」

しかし、デヴィ夫人の一言が彼を止めた。「あら、あなた逃げるの?」

その言葉に、七里の中で何かが燃え上がった。「逃げるの?」という言葉が、彼の闘争心に火をつけたのだ。七里の目に、決意の色が宿った。

さらにデヴィ夫人は続けた。「そんなに英語が話せないなら、明日のパーティーであなたのテーブルの人、特に隣の人が可哀そうよ」

この言葉に、七里は「負けてられない」と決意を新たにした。彼は深呼吸し、デヴィ夫人の目をまっすぐ見つめた。

「分かりました。頑張ります。どうか認めてください」

翌日のパーティーは、七里の想像をはるかに超える規模だった。会場に足を踏み入れた瞬間、彼は息をのんだ。

豪華絢爛なシャンデリア、美しく装飾された壁、優雅に演奏されるクラシック音楽。まるで映画のワンシーンに迷い込んだかのような錯覚を覚えた。

ある石油王が孫のために開いたこのパーティーは、まるで首都一つを貸し切ったかのような豪華さだった。七里は後で聞いた話では、このパーティーの予算は30億から50億円ほどだったという。

料理も豪華だった。一人一個のメロンがデザートとして出されるほどの贅沢さに、七里は目を丸くした。

しかし、七里はデヴィ夫人の特等席から遠く離れた後方の席に座ることになった。彼は一瞬落胆したが、すぐに気持ちを切り替えた。

「よし、ここが俺の戦場だ」

彼は、事前に用意したポケット翻訳機を巧みに使い、身振り手振りも交えながら、隣人たちと会話を始めた。最初は緊張していたが、徐々に場の雰囲気に慣れていった。

「私の会社では、AI技術を使って...」と話し始めると、隣に座っていたイタリア人のワイン醸造家が興味を示した。

「素晴らしい!その技術をワイン産業に応用できないかな?」

七里は目を輝かせた。「それは面白いアイデアですね。例えば...」

会話は弾み、テーブルの人々を巻き込んでいった。言葉の壁を越えて、アイデアと情熱が通じ合う。七里は、ここで育まれる国際的な繋がりの価値を実感した。

服装も完璧だった。白のタキシードに光る靴、その姿は多くの人の目を引いた。

「素晴らしい装いですね」ある紳士が声をかけてきた。「写真を撮ってもいいですか?」

七里は照れくさそうに同意した。彼の姿を撮りたがる人が10人近くもいた。

パーティーの終盤、七里は自信に満ちた表情でデヴィ夫人の元へ向かった。

「夫人、素晴らしいパーティーでした。ご一緒できて光栄です」

デヴィ夫人は、わずかに驚いたような、しかし誇らしげな表情を浮かべた。

しかし、パーティーが終わっても、デヴィ夫人との緊張関係は続いた。帰りの飛行機の中でも、タクシーの中でも、二人は一言も交わさなかった。

七里の胸の内では、達成感と疲労、そして何か言い表せない感情が渦巻いていた。

日本に戻った翌日、七里はデヴィ夫人の秘書に電話をかけた。彼の声は、決意に満ちていた。

「もう二度と夫人とは会いたくない。誘わないでくれ」

その後、デヴィ夫人からの度重なる電話や手紙にも応じなかった。七里の携帯電話は鳴り続け、受付には毎日のように手紙が届いた。しかし、彼は頑なに応じなかった。

ある日、分厚い封筒が届いた。中には、デヴィ夫人直筆の手紙が5枚も入っていた。

「七里さん、これは謝罪ではありませんが...」

七里は最初の数行を読んだだけで、手紙を破り捨てた。後になって、この行動を後悔することになるとは、この時は思いもしなかった。

しかし、秘書の言葉が心に残った。「七里さん、夫人は麻薬みたいな女だから、また会いたくなりますよ」

その言葉の真意を、七里はまだ理解していなかった。

時は流れ、約1年が経過した。

七里は自分のオフィスで、窓の外を見つめていた。ビジネスは順調だったが、何か物足りなさを感じていた。そして、ふと気づいた。自分は再びデヴィ夫人に会いたくなっていたのだ。

自分の至らなさを反省し、周囲の人々を通じて、デヴィ夫人に和解の意思を伝えた。

そしてある日、友人との食事中に突然デヴィ夫人から電話がかかってきた。

「あら、七里さん。今どこにいるの?」

まるで何事もなかったかのような口調に、七里は戸惑いながらも懐かしさを覚えた。

その日、七里はデヴィ夫人と共に、普通では入れない高級会員制クラブの地下ワインセラーを見学する機会を得た。

ワインセラーに一歩足を踏み入れた瞬間、七里は息を呑んだ。そこには、世界中の稀少なワインが並んでいた。ロマネ・コンティやモンラッシェのマグナムボトルが、まるで宝石のように輝いていた。

「これらのワイン、一本で何百万、何千万もするんですよね」七里は畏敬の念を込めて呟いた。

デヴィ夫人は優雅に微笑んだ。「そうよ。でも、価値があるのは単にお金だけじゃないわ。それぞれのボトルには歴史があり、物語があるの」

七里は、デヴィ夫人と行動を共にすることで得られる特別な経験の価値を再認識した。そして、自分がいかに成長したかも実感した。

帰り際、七里はデヴィ夫人に向き直った。彼の目には、謝意と決意が混ざっていた。

「夫人、私が至らずエスコートできずに、不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。今後も夫人のもとで多くのことを学びたいと思います。しかし...」

七里は一瞬躊躇したが、続けた。

「...これからは、私なりの考えもしっかりと持ち、時には意見も述べさせていただきます。それでも、私と付き合っていただけますでしょうか」

デヴィ夫人は、驚きと共に、わずかな喜びの色を浮かべた。

「ええ、もちろんよ。あなたらしさを失わないで成長する。それこそが私が望んでいたことなのよ」

この1年間の絶交期間を経て、七里とデヴィ夫人の関係は新たな段階に入った。七里は「切れる人」「自分の意見を持つ人」として認識され、デヴィ夫人の態度も以前より柔らかくなった。

この経験を通じて、七里は重要な教訓を学んだ。ただ従順であることだけが良い関係を築く方法ではなく、時には自己主張をし、対等な立場を保つことの大切さを知ったのだ。

デヴィ夫人との交流は、七里にとって真の意味での「修行」となった。社交の技術だけでなく、自己を保ちながら他者と関わる難しさと重要性を学んだのだった。

そして、七里は気づいた。この「修行」は終わりのないものだということを。デヴィ夫人との関係は、これからも彼を成長させ続けるだろう。その認識と共に、七里は新たな章へと歩み出していった。




第三話:危機と再建
デヴィ夫人との関係が深まるにつれ、七里の人生は予想もしなかった方向へと進んでいった。しかし、彼はまだ自分に待ち受ける最大の試練を知る由もなかった。
それは、世界中を震撼させた新型コロナウイルスの流行期間中のことだった。
ある日、七里の携帯電話が鳴った。画面にはデヴィ夫人の秘書の名前が表示されていた。
「七里さん、申し訳ありません」秘書の声は震えていた。「私たち、もう全員、コロナが怖くて会社に行けません。今日をもって退職させていただきます」
七里は言葉を失った。「え?ちょっと待って、全員って...」
しかし、電話はすでに切れていた。七里は急いでデヴィ夫人の事務所に向かった。
到着してみると、そこはまるでゴーストタウンのようだった。デスクには誰の姿もなく、電話が鳴り響いているだけだった。
「まさか...本当に全員いなくなってしまったのか」
七里は愕然とした。デヴィ夫人の会社の内部事情はよく知らなかったが、全社員が一斉に退職するという事態の深刻さは理解できた。
そして、デヴィ夫人が地方からの仕事を終えて戻ってくる時が近づいていた。
七里は深く考え込んだ。自分の会社も軌道に乗り始めたところだった。新規プロジェクトも控えており、重要な時期だった。しかし、デヴィ夫人の窮地を目の当たりにして、彼は決断を下した。
「俺にしかできないことがある」
七里は自分のオフィスに電話をかけた。
「すまない。しばらく会社を離れる。緊急事態なんだ。みんなを頼む」
部下たちは困惑した様子だったが、七里の決意を感じ取り、了承してくれた。
「これは...」七里は呟いた。「夫人を一人で帰らせるわけにはいかない」
七里は即座に行動を起こした。まず、デヴィ夫人を空港まで迎えに行き、自宅兼事務所まで送り届けた。
事務所に着いたデヴィ夫人の表情に、一瞬の動揺が走った。しかし、すぐに平常心を取り戻した。
「七里さん、どうやらピンチのようね」デヴィ夫人は冷静に言った。
七里は深く息を吸い、決意を固めた。「夫人、私がマネージャーを務めさせていただきます。どうか、仕事の進め方を教えてください」
デヴィ夫人は七里をじっと見つめ、そして微笑んだ。「わかったわ。でも、あなたの会社は大丈夫なの?」
七里は少し躊躇したが、すぐに答えた。「はい、大丈夫です。今は夫人を助けることが最優先だと思います」
デヴィ夫人は深く頷いた。「そう。じゃあ、始めましょう」
それから数時間、デヴィ夫人は七里に芸能マネージャーの仕事の基本を叩き込んだ。スケジュール管理、交渉、衣装選び、メイクアップアーティストとの調整など、細かい点まで丁寧に説明した。
七里は必死にメモを取り、質問を重ねた。「これは本当に貴重な機会だ」と彼は心の中で思った。同時に、自分の会社のことが頭をよぎった。「大丈夫だろうか...」
翌日から、七里の奮闘が始まった。テレビ局や雑誌社からの電話に対応し、一つ一つの仕事を丁寧に確認していった。
「申し訳ありません、私は新しく担当することになった者です。実は、前任者から引き継ぎを受けていないのですが、詳細を教えていただけますか?」
最初は戸惑いもあったが、徐々にコツをつかんでいった。デヴィ夫人のスケジュールを管理し、衣装を選び、メイクアップアーティストとの調整も行った。
「夫人、この衣装はいかがでしょうか?過去の出演では使用していないものです」
デヴィ夫人は満足げに頷いた。「良いわね。センスがあるじゃない」
日々の業務をこなしながら、七里は芸能界の内側を知る機会を得た。デヴィ夫人の仕事の流れ、ギャラの交渉、様々な業界人とのやり取り。すべてが新鮮で、学ぶことばかりだった。
一方で、自分の会社のことが気がかりだった。毎晩遅くなってから会社に電話をかけ、状況を確認した。「すまない、みんな。もう少し時間をくれ」
約1週間が経過した頃、七里は懸命の説得の末、1人の秘書を戻すことに成功した。
「本当に戻ってきてくれてありがとう」七里は心からの感謝を伝えた。
秘書は少し恥ずかしそうに笑った。「七里さんの熱意に負けました。私にできることがあるなら、精一杯頑張ります」
そして、2週間後には経理担当も戻ってきた。徐々にではあるが、会社の機能が回復し始めた。
しかし、依然として人手不足は深刻だった。特に、芸能マネージャーが完全に連絡が取れない状態が続いていた。
「夫人、明日の番組の打ち合わせの件ですが...」七里は困惑の表情を浮かべながらデヴィ夫人に相談した。
デヴィ夫人は優しく微笑んだ。「大丈夫よ。あなたがやってくれればいいわ。信頼しているから」
七里は緊張しながらも、デヴィ夫人の言葉に勇気づけられた。テレビ局との打ち合わせ、衣装の選定、メイクアップアーティストとの調整。すべてを一人でこなさなければならなかった。
夜遅くまで働き、早朝から出勤する日々が続いた。時には失敗もあった。ある日、衣装の準備を忘れてしまい、デヴィ夫人を慌てさせてしまったこともあった。
「申し訳ありません、夫人」七里は深々と頭を下げた。
デヴィ夫人は厳しい表情を浮かべたが、すぐに柔らかくなった。「大丈夫よ。失敗は成長の糧。次は気をつけましょう」
この言葉に、七里は更に奮起した。
そんな中、七里は会社再建の次の段階に進んだ。「デヴィ夫人の秘書募集」という広告をインディードに掲載したのだ。
予想外の反響があった。元東大生、コロンビア大学卒業生、金融機関勤務経験者、そして元客室乗務員など、多彩な経歴を持つ応募者が殺到した。
「まさか、300人もの面接をすることになるとは...」七里は驚きながらも、この機会を最大限に活かそうと決意した。
面接を重ねるうちに、七里は人を見る目が養われていった。優秀な人材の特徴、考え方、話し方。これらを学ぶことで、七里自身の成長にもつながった。
「面接がうまくなったね」と周囲から言われるようになった。
そして、デヴィ夫人の会社は徐々に再建されていった。新しいスタッフが加わり、業務が正常化していく。七里は、人事や経理、マーケティングなど、幅広い分野を任されるようになった。
しかし、七里は一銭も給料を受け取らなかった。それどころか、広告費や運営費を自腹で払うこともあった。
「年間で1000万円くらいの赤字かな」と七里は冗談交じりに言ったが、その目は真剣だった。
ある日、デヴィ夫人は七里を呼び出した。
「七里さん、あなたには本当に感謝しているわ」デヴィ夫人の声には珍しく柔らかさがあった。「危機的状況から、ここまで会社を立て直してくれて。自分の会社をほったらかしにしてまで...」
七里は謙遜しようとしたが、デヴィ夫人は続けた。
「でも、どうしてここまでしてくれるの?給料も受け取らずに」
七里は少し考え、そして答えた。「夫人、私にとってこれは何物にも代えがたい経験です。人との出会い、ビジネスの知識、そして自分自身の成長。お金では買えないものをたくさん得ています。確かに自分の会社のことは気がかりですが、ここでの経験は必ず将来活きてくると信じています」
デヴィ夫人は静かに頷いた。「そう。その姿勢こそが、あなたを特別な存在にしているのよ」
この経験を通じて、七里はデヴィ夫人との関係をより深め、自身のキャリアにも新たな可能性を見出した。危機は彼に成長の機会を与え、彼の人生をさらに豊かなものにしたのだった。
そして、七里は気づいた。デヴィ夫人との出会いは、単なる偶然ではなく、彼の人生を大きく変える運命的な出来事だったのだと。
これからも、デヴィ夫人と共に歩む道には、さらなる挑戦と成長の機会が待っているに違いない。七里は、その未来に向かって歩み続ける決意を新たにしたのだった。


第四話:口笛少女との出会い
デヴィ夫人の会社再建に奔走する日々が続く中、七里の元に一通のメッセージが届いた。それは、彼の人生にまた新たな転機をもたらすことになる。
ある日の午後、スマートフォンの通知音が鳴り、七里は慌ただしく画面を確認した。
「こんにちは。私は現在高校3年生の17歳、加藤万里奈と申します」
七里は目を疑った。普段なら、このような見知らぬ人からのメッセージは無視するところだった。しかし、何かが彼の興味を引いた。
メッセージは続いていた。「中学3年の時に口笛世界大会で優勝させていただき、実は優勝する前にデヴィ夫人のパーティーで口笛を吹かせていただいたことがあります。前からデヴィ夫人の大ファンでしたので、その時、夫人にお会いできて凄く嬉しくて、また何処かでお会いしたいと思っていました」
七里は思わず微笑んだ。「17歳で世界チャンピオンか...なかなかパワーがあるな」
さらに読み進めると、万里奈がデヴィ夫人のパーティーに参加したいという希望が書かれていた。「デヴィ夫人に優勝できたことを報告できたらいいなと思っています。デヴィ夫人のパーティーがまたありましたら、ぜひ誘ってください」
七里は少し考えた。通常なら、このような要求は断るところだった。しかし、この若い才能に何か特別なものを感じた。
「よし、チャンスを与えてみよう」七里は決心した。
返信を送る。「10月に大きなパーティーがあります。もし良ければ、その時に来ていただけますか?いつも席を埋めなければならないので、空席があれば参加できます」
数ヶ月後、パーティーの日が近づいてきた。七里は万里奈のことを思い出し、参加の確認メッセージを送った。
「ありがとうございます!必ず参加させていただきます」という返事が即座に返ってきた。
しかし、その後、予想外の展開があった。万里奈から困惑気味の連絡が入ったのだ。
「七里さん、申し訳ありません。実は、私の家族が心配しているんです。パーティーのことを話したら、『詐欺かもしれない』『あなたは騙されている』と言われてしまって...」
七里は驚いた。確かに、見知らぬ人からの招待は怪しく見えるかもしれない。彼は慎重に返信した。
「ご家族の心配はもっともです。しかし、このパーティーは本物です。デヴィ夫人も参加されます。もし良ければ、ご家族にも説明させていただきますが」
結局、万里奈の家族を完全に安心させることはできなかったが、万里奈自身の強い意志で参加が決まった。
パーティー当日、七里は会場の入り口で万里奈を待っていた。そこに現れたのは、きちんとドレスアップした若い女性だった。
「こんにちは、加藤万里奈です」彼女は丁寧にお辞儀をした。
七里は感心した。「おお、すごいじゃないか。きちんとドレスアップして来てくれて、ありがとう」
パーティーの間、七里は忙しく立ち回っていたが、時折万里奈の様子を見守った。彼女は礼儀正しく、控えめながらも自信を持って振る舞っていた。
「なかなか面白い子だな」七里は思った。「若い才能を育てるのも悪くないかもしれない」
パーティーが終わり、七里は万里奈を見送った。「楽しんでいただけましたか?」
万里奈は目を輝かせて答えた。「はい、とても素晴らしい経験になりました。ありがとうございます」
数日後、七里は万里奈から思いがけない話を聞いた。
「実は...」万里奈は少し恥ずかしそうに言った。「パーティーの日、私の家族全員が会場の外で待機していたんです」
七里は驚いた。「えっ、本当に?」
万里奈は頷いた。「はい。私が騙されていないか、安全かどうかを確認するためだったそうです。特におじいちゃんが心配で、『何かあったら助けに行く』と言っていたらしくて...」
七里は思わず笑ってしまった。「まるで映画のワンシーンみたいだね。でも、家族の愛情は素晴らしいものだ」
万里奈も笑顔を見せた。「はい。今では家族も安心して、むしろ応援してくれています」
七里はほっとした表情を浮かべた。「それは良かった。これからの活躍が楽しみだよ」
それから数週間後、七里はデヴィ夫人と歌舞伎を見に行く予定があった。ふと思い立ち、夫人に相談した。
「夫人、もしよければ、面白い高校生がいるのですが、歌舞伎に連れて行ってもよろしいでしょうか?」
デヴィ夫人は少し考えてから答えた。「そうね、いいわよ。連れてきなさい」
当日、新橋演舞場の前で七里が驚いたのは、万里奈が完璧な着物姿で現れたことだった。
「やるな、この子は」七里は感心した。
しかし、デヴィ夫人の最初の反応は厳しいものだった。
「あら、あなた、その着物、全然似合ってないわ」
七里はヒヤリとしたが、万里奈の返答に驚かされた。
「夫人、私は今日のために一生懸命選んで着てきたんです!私の着物、褒めてください!」
周囲が息を呑む中、デヴィ夫人の表情が変わった。
「あら、そう。よく見たら、意外と似合ってるわ」
七里は思わず笑みを浮かべた。「この子、やっぱりただものじゃない」
その後、万里奈はデヴィ夫人との交流を深めていった。彼女が口笛の世界チャンピオンであることや、デヴィ夫人への深い敬愛の念を持っていることが分かった。
数ヶ月後、七里はある驚きの報告を聞いた。万里奈がデヴィ夫人の家に居候することになったのだ。
「電車で2時間かかるのが可哀想だから、私の家から通いなさい」とデヴィ夫人が言ったという。
こうして万里奈は、「デヴィ夫人の家に居候している大学生」という肩書きを得て、新たな生活をスタートさせた。七里は、この展開に驚きつつも、万里奈の成長を楽しみに見守ることにした。
デヴィ夫人との同居生活は、万里奈にとって毎日が学びの連続だった。朝食テーブルでの会話、夕食の準備、そして夜のサロンでのディスカッション。すべてが彼女にとって新鮮で刺激的な経験となった。
「万里奈、その箸の持ち方は違うわ」デヴィ夫人は厳しくも愛情を込めて指導した。「レディとしての所作は、常に意識しなければいけないのよ」
万里奈は真剣にうなずき、すぐさま箸の持ち方を直した。「はい、夫人。ありがとうございます」
デヴィ夫人は万里奈の熱心さに満足げな表情を浮かべた。「そうそう、その姿勢よ。学ぶ意欲が大切なの」
七里は、この様子を見て微笑んだ。「夫人の厳しさと優しさのバランスが、人を成長させるんだな」
日々の生活の中で、万里奈は急速に成長していった。テーブルマナーや立ち振る舞いはもちろん、会話の技術や人との接し方まで、デヴィ夫人から直接学ぶ機会を得た。
そして、デヴィ夫人の人脈を通じて、万里奈の活動の場は急速に広がっていった。
ある日、デヴィ夫人は万里奈に声をかけた。「万里奈、今度のチャリティーイベントで口笛を披露してみない?大物プロデューサーも来るわよ」
万里奈は目を輝かせた。「はい、ぜひお願いします!」
このイベントでの万里奈の演奏は大成功を収め、その場にいたテレビプロデューサーの目に留まった。これをきっかけに、彼女はテレビ番組「サンジャポ」への出演オファーを受け、その知名度は一気に上昇した。
七里は、万里奈の急速な成長と成功を目の当たりにして感慨深かった。「デヴィ夫人の影響力は凄まじいな。万里奈の才能を引き出し、さらに磨きをかけている」
テレビ出演を重ねるにつれ、万里奈は単なる「口笛少女」から、知性と教養を備えた若手タレントとして認知されるようになっていった。デヴィ夫人との生活で培った立ち振る舞いや話し方は、彼女の魅力をさらに引き立てた。
「万里奈、あなたの成長ぶりには目を見張るものがあるわ」ある日、デヴィ夫人が優しく微笑んだ。「でも、これはまだ始まりに過ぎないのよ」
万里奈は深々と頭を下げた。「はい、夫人。これからも精進して参ります」
七里は、この二人のやり取りを見ながら、自分自身の成長も実感していた。「夫人のそばにいると、人は本当に成長するんだな。万里奈も、そして俺も」
そして、七里は気づいた。デヴィ夫人との出会いが、自分だけでなく、他の人の人生も変えていくのだと。それは、まるで連鎖反応のように、新たな可能性を生み出していくのだった。
「マリナとの出会いから7年か...」七里は感慨深く思った。「今では立派な大人になって、すごい美人になったな。そして、才能あふれる若手タレントとして、どんどん上を目指している」
万里奈の成功は、デヴィ夫人の指導と人脈、そして彼女自身の才能と努力が見事に調和した結果だった。テレビ番組への定期的な出演だけでなく、雑誌のコラム執筆や、高級ブランドの広告モデルなど、その活動範囲は急速に拡大していった。
「デヴィ夫人の家に居候している大学生」という肩書きは、今や彼女のキャリアの興味深いエピソードの一つとなり、メディアでも頻繁に取り上げられるようになった。
七里は、万里奈の成功を誇らしく思いながらも、自分自身の役割にも気づいていた。「あの時、彼女にチャンスを与えて良かった。これからも、新しい才能を発掘し、育てていくのも、俺の仕事の一つかもしれない」
そんな中、思いがけない展開があった。ある日、万里奈の母親から七里に連絡が入ったのだ。
「七里さん、本当にありがとうございます」母親の声には感謝の気持ちが溢れていた。「娘がこんなに成長できたのも、あなたとデヴィ夫人のおかげです。これからは家族ぐるみでお付き合いさせていただきたいと思います」
七里は恐縮しながらも、その言葉に喜びを感じた。しかし、次の言葉に彼は思わず戸惑った。
「それと...」母親は少し躊躇いながら続けた。「万里奈のことは、もう好きにしていただいて構いませんよ」
七里は一瞬言葉を失った。「え?あ、いえ...そういうわけでは...」
頭の中で「おいおい、17歳に何もしないよ」と思いながら、七里は慌てて丁寧な言葉を紡いだ。
「ありがとうございます。しかし、私は万里奈さんの才能を純粋に応援しているだけです。彼女の未来が輝かしいものになるよう、できる限りサポートさせていただきます」
電話を切った後、七里は深いため息をついた。「まさか、こんな展開になるとは...」
しかし、すぐに彼の顔に笑みが浮かんだ。この一連の出来事が、いかに自分の人生を豊かにし、新たな可能性を開いてくれたかを実感したのだ。
七里は窓の外を見つめながら、これまでの道のりを振り返った。デヴィ夫人との出会い、万里奈との邂逅、そして彼女の成長を見守ってきた日々。すべてが彼自身の成長にもつながっていたことに気づいた。
「人を育てることで、自分も育つんだな」七里は静かにつぶやいた。
翌日、七里はデヴィ夫人に会う機会があった。彼は昨日のできごとを報告しようか迷ったが、結局話すことにした。
デヴィ夫人は七里の話を聞くと、くすりと笑った。「あら、万里奈のお母様も面白い方ね。でも、七里さん、あなたの対応は素晴らしかったわ」
七里は少し照れながら答えた。「ありがとうございます。でも、まさかこんなことになるとは思いもしませんでした」
デヴィ夫人は優しく微笑んだ。「人生には思いがけない展開がつきものよ。大切なのは、どう対応するか。あなたは正しい選択をしたわ」
その言葉に、七里は勇気づけられた。そして、ふと思いついたことがあった。
「夫人、私も若い才能の発掘と育成に力を入れてみようと思います。万里奈さんとの出会いで、その大切さを学びました」
デヴィ夫人は満足げにうなずいた。「素晴らしい考えよ。あなたなら、きっとすばらしい才能を見出せるわ」
その日以降、七里は自分の仕事の傍ら、若い才能の発掘と育成にも力を入れるようになった。デヴィ夫人のパーティーや各種イベントで出会う若者たちに、積極的に声をかけ、アドバイスを送るようになった。
そして、万里奈との関係も、純粋な mentor と mentee の関係として深まっていった。彼女の成長を見守りながら、時に厳しく、時に優しくアドバイスを送る。その過程で、七里自身も多くのことを学んでいった。
ある日、万里奈が七里のオフィスを訪れた。
「七里さん、私、新しい挑戦をしようと思います」彼女の目は決意に満ちていた。
「おや、どんな挑戦かな?」七里は興味深そうに尋ねた。
「口笛と伝統音楽のフュージョンに挑戦したいんです。日本の文化を世界に発信する新しい形を探りたくて...」
七里は感心した。「それは面白い試みだね。きっと成功するよ。どんなサポートが必要か教えてくれ」
万里奈は感謝の笑顔を見せた。「ありがとうございます。七里さんとデヴィ夫人のおかげで、ここまで来られました。これからも頑張ります」
七里は万里奈の成長ぶりを誇らしく思いながら、自分自身の成長も実感していた。デヴィ夫人との出会いから始まったこの journey は、彼の人生に想像以上の豊かさをもたらしていた。
これからも、デヴィ夫人と共に歩む道には、さらなる出会いと成長の機会が待っているに違いない。七里は、その未来に向かって歩み続ける決意を新たにしたのだった。
そして、彼は心の中で誓った。「これからも、才能ある若者たちの道を開く手助けをしていこう。それが、デヴィ夫人から学んだ最も大切なことだから」
窓の外に広がる東京の街並みを見つめながら、七里は新たな挑戦への期待に胸を膨らませた。彼の人生の新しい章が、今まさに始まろうとしていた。



第五話:海外旅行は素晴らしい
デヴィ夫人との出会いから約十年。七里の人生は、想像もしなかった方向へと大きく変化していった。その中でも特に印象深かったのは、夫人と共に世界各国を旅したことだった。
最初の海外旅行の誘いは、デヴィ夫人との関係が深まり始めた頃のことだった。
「七里さん、今度インドネシアに行くのだけど、一緒に来ない?」
七里は戸惑いながらも、興奮を抑えきれずに答えた。「はい、ぜひご一緒させてください」
インドネシア訪問は、七里にとって衝撃的な経験となった。スカルノ・ハッタ国際空港に到着した瞬間から、デヴィ夫人の元大統領夫人としての地位を目の当たりにした。入国手続きは一瞬で終わり、パトカーの先導で市内へ向かう。その後訪れた富豪の邸宅でのパーティーは、七里の想像を遥かに超える豪華さだった。
「夫人、これが世界の富豪の暮らしなのでしょうか...」七里が呟くと、デヴィ夫人は微笑んだ。
「そうよ。でも、大切なのは外見だけじゃないわ」
この言葉は、その後の七里の人生観に大きな影響を与えることになる。
それから数ヶ月後、今度はニューヨークへの旅だった。デヴィ夫人の人脈のおかげで、ヤンキースタジアムのバックネット裏で大谷選手の試合を観戦することができた。
「すごい...こんな近くで見られるなんて」七里は興奮を隠せなかった。
デヴィ夫人は楽しそうに笑った。「人生、時には特別な体験も必要よ」
翌年には、ロンドンとパリを訪れた。ロンドンでは王室関係者との会食に同席し、パリではルーブル美術館のプライベートツアーに参加した。七里は、自分の世界がどんどん広がっていくのを感じていた。
「夫人、こんな経験ができるなんて、本当に感謝しています」
デヴィ夫人は優しく微笑んだ。「あなたの成長が、私にとっての喜びよ」
3年目には、モナコとオーストラリアを訪れた。モナコのカジノで大金を賭ける富豪たちの姿を目の当たりにし、オーストラリアでは大自然の中でデヴィ夫人との静かな時間を過ごした。
「自然の中にいると、人間の小ささを感じますね」七里が言うと、デヴィ夫人は頷いた。
「そう、でも同時に、人間の可能性の大きさも感じるのよ」
5年目には、キューバを訪れた。社会主義国家の現実を目の当たりにし、七里の世界観はさらに広がった。
しかし、最も印象に残ったのは、7年目に訪れた北朝鮮だった。


北京から平壌へ向かう飛行機の中で、七里は緊張していた。「本当に大丈夫なのだろうか」という不安が頭をよぎる。しかし、隣に座るデヴィ夫人は平然としていた。
「七里さん、心配することはないわ。私がついているのよ」
その言葉に、七里は少し安心した。
平壌空港に降り立った瞬間、七里は息を呑んだ。デヴィ夫人と共に行動することで、通常では考えられないVIP待遇を受けたのだ。
「七里さん、ここでは私の言うとおりにしていれば大丈夫よ」デヴィ夫人が優しく微笑んだ。
入国手続きは一瞬で終わり、専用車で直接ホテルまで案内された。街を走る車の中で、七里は目を見張った。
「夫人、ここは本当に北朝鮮なんですか?テレビで見るイメージとまったく違います」
デヴィ夫人は含み笑いをした。「そうよ。メディアだけを信じてはいけないわ。自分の目で見ることが大切なのよ」
平壌市内は、七里の想像をはるかに超えていた。近代的な高層ビルが立ち並び、街路樹の緑が美しく整備されている。人々は皆、きちんとした服装で颯爽と歩いている。
滞在中、七里は金日成・金正日の遺体が安置された錦繍山太陽宮殿を訪れた。巨大な建物の前に立つと、七里は思わず息を飲んだ。
「なんという威厳...」
中に入ると、まず金日成と金正日の業績を称える展示を見学した。写真や映像、贈り物の数々が並ぶ。北朝鮮の人々が涙を流しながら見入っている姿に、七里は複雑な思いを抱いた。
遺体安置室に入る前、七里は緊張で体が硬直した。しかし、デヴィ夫人は平然としている。
「夫人、緊張します...」
「大丈夫よ。自然に振る舞えばいいの」
部屋に入ると、ガラスケースの中に横たわる金日成と金正日の遺体が目に入った。七里は思わず息を呑んだ。周りでは北朝鮮の人々が号泣している。
「まるで生きているかのようです...」七里は小声で呟いた。
デヴィ夫人は静かにうなずいた。「そう、彼らにとっては神のような存在なのよ」
しかし、北朝鮮滞在の最大の驚きは、金日成・金正日の宝物庫訪問だった。平壌から離れた山奥に向かう道中、七里は不安と期待が入り混じった気持ちだった。
「夫人、この宝物庫は一般の人も見られるんですか?」七里が尋ねると、デヴィ夫人は微笑んだ。
「いいえ、特別な許可が必要よ。あなたは幸運ね」
車が山道を登っていくと、突然巨大な扉が現れた。七里は息を呑んだ。
「なんて巨大な...これが入り口ですか?」
デヴィ夫人は頷いた。「そうよ。この宝物庫は山をくり抜いて作られているの。まるで要塞のようでしょう」
中に入ると、七里は目を見張った。想像を遥かに超える広大な空間が広がっていた。
「まるで迷宮のようです...」七里が呟くと、案内人が説明を始めた。
「この宝物庫には、世界中から金日成主席と金正日総書記に贈られた品々が保管されています。総展示数は膨大で、全てを見るには1年以上かかるとされています」
七里は驚愕した。「1年以上...なんという規模...」
デヴィ夫人は冷静に補足した。「そうよ。ここにあるものは単なる贈り物ではなく、北朝鮮の誇りなのよ」
展示は小さな品々から始まり、奥に進むにつれて大きくなっていった。七里は次々と現れる驚異的な展示物に圧倒されていた。
突然、案内人が声を上げた。「次は、スターリンから贈られた自動車です」
七里の目の前に、クラシックな高級車が姿を現した。完璧に保存された状態で、まるで時が止まったかのようだった。
「信じられない...これが本物のスターリンからの...」
デヴィ夫人は冷静に観察していた。「素晴らしい保存状態ね。おそらく世界で最も状態のいいものかもしれないわ」
さらに奥に進むと、案内人が次の展示を紹介した。「こちらは毛沢東主席から贈られた列車です」
七里は言葉を失った。目の前には実物大の列車が鎮座していた。
「夫人...どうやってここまで運んだんでしょうか...」
デヴィ夫人は微笑んだ。「技術の力よ。そして意志の力ね」
しかし、最大の衝撃はその先にあった。
「次は、スターリンから贈られた飛行機です」
七里は目を疑った。巨大な空間に、10人乗りほどのプロペラ機が展示されていた。
「嘘でしょう...飛行機まで...」
デヴィ夫人は七里の反応を楽しんでいるようだった。「驚いたでしょう。これが国家の力よ」
展示品の説明を聞きながら、七里は驚きの連続だった。しかし、最も驚いたのはデヴィ夫人の言葉だった。
「あら、この方とはお会いしたことがあるわ」
七里は思わず振り返った。「え?夫人、本当ですか?」
デヴィ夫人は淡々と答えた。「ええ、昔のことよ。世界は思ったより狭いのよ」
その瞬間、七里はデヴィ夫人の存在の大きさを改めて実感した。彼女は生きた歴史そのものだった。
宝物庫を後にする頃には、七里の価値観は大きく揺さぶられていた。
「夫人、今日見たものは、私の想像を遥かに超えていました。この経験は一生忘れられないでしょう」
デヴィ夫人は優しく微笑んだ。「そうよ、七里さん。これが旅の醍醐味なの。自分の目で見て、自分で感じること。それが何より大切なのよ」
北朝鮮訪問を通じて、七里は世界の見方が大きく変わった。固定観念にとらわれず、自分の目で確かめることの大切さを学んだのだ。

デヴィ夫人が七里に尋ねた。
「七里さん、この旅で何を学びましたか?」
七里は少し考えてから答えた。「夫人、私は世界の広さと、同時に自分の小ささを知りました。でも、それと同時に、可能性も感じています。夫人と一緒に過ごすことで、お金では買えない特別な体験ができました。これからは、この経験を活かして、自分の人生をより豊かにしていきたいと思います」
デヴィ夫人は満足げに微笑んだ。「そう、その通りよ。人生は、自分で切り拓いていくものなのよ」
日本に戻った七里は、世界を旅した経験を胸に、新たな決意を固めていた。デヴィ夫人との出会いと旅が、彼の人生を大きく変えたのは間違いなかった。
そして彼は、これからも成長し続けるために、世界中を旅する夢を抱き続けることにした。デヴィ夫人との旅は終わったが、七里の新たな旅はまだ始まったばかりだった。



6話 デヴィ組の筆頭若頭:七里の最終昇進
七里は、デヴィ夫人との出会いから10年の歳月を経て、ついにデヴィ組の筆頭若頭の座に上り詰めた。その道のりは、献身と戦略、そして東京の夜の世界への深い造詣によって彩られていた。
デヴィ組での七里の台頭は、まずパーティーの集客力から始まった。当初は1テーブル、3テーブルと地道に努力を重ね、やがて「七里さんが10テーブル埋めた!」と称賛される存在となった。
しかし、七里の真価が発揮されたのは、デヴィ夫人の会社での無給の副社長としての働きと、トラブル処理能力だった。「年間で1000万円くらいの赤字かな」と冗談めかして言いつつも、七里は献身的に働き続けた。
「夫人は有名人で、活動的な方だから、トラブルは付きものでした」と七里は説明する。「携帯電話を投げて物を壊してしまったり、お客様とのトラブルがあったり...この10年間、そのすべてを私が裏で処理してきたんです」
この献身ぶりは、デヴィ組内で高く評価された。「何かトラブルがあったら、七里さんが全て解決してくれる。それこそが最高の上納金だ」という声が広まっていった。
しかし、七里を真にデヴィ組の筆頭若頭へと押し上げたのは、彼の「東京で一番遊びを知っている男」としての評判だった。
2012年から2020年頃までの約8年間、七里は東京の街を徹底的に探索した。有名店から隠れた名店まで、季節ごとのイベント、そして時にはアダルトな世界まで、あらゆる「遊び」を体験した。
「本当に、東京という街を遊び尽くしましたね」と七里は懐かしそうに語る。「1月にはこのイベント、2月にはあのイベントと、年間カレンダーが頭に入っているんです」
この豊富な経験を活かし、七里はデヴィ夫人の海外の要人たちに東京の魅力を紹介する役割を担うようになった。
「デヴィ夫人の海外のお友達が来日すると、私が全てアテンドするんです」と七里は説明する。「お金は一切もらいません。むしろ私がご馳走します。そうすることで、海外に行った時に今度は向こうが私の面倒を見てくれる。そういう関係性が築けたんです」
七里のアテンドは、単なる観光案内にとどまらなかった。彼は要人たちを東京の隠れた名店や、季節限定のイベント、時には大人の社交場にまで案内した。これらの経験は、海外の要人たちに強烈な印象を残した。
「七里さんのおかげで、東京の本当の魅力を知ることができた」「彼のガイドは、どんな高級旅行会社よりも素晴らしい」といった賞賛の声が、デヴィ夫人の耳に届くようになった。